ハワイアンな音楽に合わせて、腰を揺らして踊る「フラダンス」。妊娠中のエクササイズとは、やや無縁な感じがするかもしれません。でも、妊婦向けに開発されたという「マタニティ・フラ」なら、妊娠中のマイナートラブルに効果があるのだそう。しかも、踊っているうちに気分まで明るくなってくるのだとか。そんな、楽しく踊れて体にもいいマタニティ・フラとは、どんなものなのでしょうか?
今回は、マタニティ・フラのエクササイズを取り入れている『東府中病院』に伺って、レッスン風景をのぞいてみました!
この記事の監修
片石かおりさん
日本マタニティビクス協会マタニティ・フラのインストラクター。フィットネスインストラクター歴7年で、マタニティ・フラを始めて2年。このほか、産後のアフタービクスやマタニティ・スイミングの指導も。「育児には笑顔が一番大切」という片石さんは、13歳、9歳、5歳と3人の子どもの現役ママ。
「楽しい」から導入した
フラ・エクササイズ
東京都府中市にある東府中病院には、マタニティ・エクササイズ専用のスタジオがあります。ここで月に2回開催されているマタニティ・フラ。フラダンスが大好きで、自らフラの経験もある病院の常務理事・十蔵寺澄子さんが、妊婦中からぜひこの楽しさを知ってほしいと、他にさきがけて導入したのです。
時間になると続々と妊婦さんがやってきて、スタジオがにぎやかになってきました。
レッスン前には、それぞれ体重と血圧測定を済ませ、助産師さんのメディカルチェックを受けます。ドップラーで赤ちゃんの心音もチェック。赤ちゃんが元気なことを確認してから、さあスタート! 病院ならではの安心感です。
みんなTシャツにスパッツ、素足といった格好ですが、お花のレイが配られて首にかけると、気分はまさにハワイアン。
「ウォーミングアップからスタートしまーす!」というインストラクター・片石かおりさんの掛け声とともにレッスン開始。いきなりアップテンポのハワイアンがかかり、足踏みが始まりました。
「腕を自然に振ってね。呼吸も自然に入れながら、あと4つ、フォー、スリー、ツー……」軽快な片石さんの掛け声に合わせ、足踏みしながら、手足をブラブラさせたり、手をたたいたり、片手を上げたり…。
うっすら汗をかいて、からだもいい具合にほぐれてきたところで、いよいよフラのエクササイズです。
東府中病院
東府中駅から徒歩5分。1972年に開院したが、2005年に新病院が完成。最新設備を導入した。全室個室の人気の産院。
十蔵寺澄子さん
東府中病院常務理事。病院内にスタジオを作るなど、マタニティ・エクササイズを積極的に導入。「フラダンスは昔、私もやっていたんです。楽しいですよ」。
神様と対話する踊りは、
ジェスチャーみたい
フラの動きの基本は、ひざをゆるめ、腰を落とした姿勢で腰を左右に振りながら、横にステップを踏みます。
ハワイアンに合わせて腰を振りながら、右へ2ステップ、今度は左へ2ステップ。「ひざはゆるめたまま、お尻は突き出さないように、締めてね」と片石さん。
足のステップに慣れたら、今度は腕を横になびかせて、進行方向に手をゆらゆら。これは「波」を表しているのだそう。手の動きがつくと、フラダンスらしくなって、気分も乗ってきます。
「きれいなお月様をイメージします。背中はまっすぐ伸ばしましょう」(片石さん)。
横に2ステップを踏みながら、両手を下から上に広げて丸いお月様を作ります。再び2ステップで上から下に円を描きながら、両手を下げていきます。
「次は椰子の木。ウルトラマンみたいにして手をひらひらさせましょう」。
いわゆる“スペシウム光線”みたいなポーズ。顔の前に立てた右手が椰子の木、手をひらひらさせるのは、木が風になびいて揺れている感じ。同様に手を替えて、左手もひらひら……。
さらに、「ウクレレ」は、エアギターならぬ、エアウクレレ。「レイをあげる」ポーズでは、両手を差し出して、うやうやしく捧げる感じ。
「波」も「月」も「椰子の木」も「ウクレレ」も「レイ」も、まるで手話やジェスチャーみたいに、言葉そのものを身振り手振りで表現します。
ハワイなどに住むポリネシアの民族舞踊であるフラは、文字のなかった時代に神様と対話し、神話や歴史、伝説を伝えるためのもの。下半身のステップでリズムをとりながら、上半身の手や腕のひとつひとつの動きで、詩や言葉、心を表現していくのです。
エクササイズ風景
ガラスに映った姿を見ながらエクササイズ。アップテンポなフラで、運動量もかなりのもの。
マタニティ・フラの振り付け①
●お月様
手を円を描くように両手を上げ、再び、円を描くように下げていく。きれいなお月様をイメージして。
●椰子の木
ウルトラマンの“スペシウム光線”のポーズで、手先をひらひら。椰子の木が風に揺られて気持ちよさそう。
●ウクレレ
ウクレレを弾くマネをしながら、前後にステップを踏んでいく。次に持ち手を替えて、のんびりと。
あっという間に
一曲踊れるように!
さて、次は、ひとつひとつ練習していた、「波」や「月」「椰子」…などの動きを、音楽に合わせてつなぎ合わせて踊ります。すると、いつの間にか1曲が完成! 『月の夜は』という曲で、メロディを聞けば、きっと「ああ、知ってる」となる有名な曲です。
参加者のほとんどがマタニティ・フラ初体験にして、あっという間に1曲踊れるようになってしまったのです。なんだかとても感動的! 踊るって楽しい!
「これまで運動をしていなくて自信がなくても、からだが硬くても、音楽に合わせて、歌詞に合わせてからだを動かせば、誰でもすぐにできるのが、フラのいいところです」(片石さん)
妊娠中のエクササイズにアレンジするときの注意点は、「左右対称の動きにすること」(片石さん)。
フラには、右方向だけの動き、左方向だけのステップなど、片側に偏った動きもよくあるので、そこは左右均等の動きになるように構成しているそうです。
マタニティ・フラの振り付け②
●ハワイ式の礼
右足を前に1歩、両手を差し出して頭を下げて礼。曲の最後に礼をして締めくくる。
筋力アップで体力向上、
肩凝り・腰痛も改善
フラは、妊娠中のマイナートラブル解消にもつながります。たとえば、「月」を表現するときには、両手を肩より上に上げて動かすので、肩のまわりの筋肉がほぐれて血行がよくなり、肩こりの解消につながります。
「波」や「椰子の木」では、指先までしなやかに動かすので、手足の抹消のしびれやむくみの改善に効果。
ひざを曲げたまま、中腰のステップで腰を動かすことで、下半身の筋力もパワーアップ。お産に向けた体力がつきます。腹筋もかなり使うので便秘の改善・予防に。また、背筋を伸ばしながら腰をくねくねと動かすので、腰痛も改善。産後も続ければ、ボディリフォームの効果も大です。
「なんとなく不安で落ち込んでいる時も、レッスンが始まると、いつの間にか笑顔になっているんです。また、気持ちを込めて踊ることで、心もからだも癒されて、イライラが消え、自然にママになる自信と勇気がわいてきます。それが、スピリチュアルなフラの効果でもあると思います」(片石さん)。
神様と話す癒し系の踊りフラは、出産という神秘体験をするマタニティの、心とからだにぴったりのエクササイズなのかもしれません。
取材協力/『東府中病院』(東京都府中市) 監修/片石かおりさん(インストラクター)