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妊娠中でも安全な薬とは?

2007.05.02

妊娠に気づかず、うっかり飲んでしまった薬。おなかに赤ちゃんがいることを知ると、これまで飲んできた薬の影響が急に心配になってきます。妊娠中の「安全な薬」「危ない薬」とは、一体どういうものなのでしょうか? また、もし薬を飲んでしまったとしたら、赤ちゃんに影響するリスクはどのくらいあるのでしょうか?
今回は、妊娠中の薬に関する相談窓口を持つ『虎の門病院』の横尾郁子先生を訪ね、妊娠中は薬のリスクをどうとらえればいいのか、そして特にリスクが高い薬にはどういったものがあるのかについて聞いてきました!

取材協力・監修

横尾郁子先生

新潟県生まれ。東京女子医大医学部卒業後、同大学産婦人科勤務を経て、1992年より、虎の門病院産婦人科勤務。「妊娠と薬外来」担当医。ストレートでわかりやすい説明、温かい人柄で人気の先生。

虎の門病院ホームページ

相談者数1万人以上、で
問題があったのは数人

虎の門病院では、18年前から「妊娠と薬外来」という相談窓口を設けています。産科で診察をしていると、「こんな薬を飲んでしまったけれど、大丈夫?」という質問がとても多いんですね。そんな不安にきちんと対応していこうと、薬剤部のスタッフを充実させ、世界の最新の薬情報をつねに入手できるよう、資本を投じてシステムを作りました。

これまで、この外来に相談に来た人は1万人以上。そのうち、問題のある可能性がある薬を使っていて、「赤ちゃんに障害が出るリスクが10%以上ある」とお話したのは、数人です。つまり99.9%は、薬によるリスクがなかった。基本的に、妊娠初期にうっかり飲んで赤ちゃんに影響の出る可能性のある薬は、ほとんどないといっていいのです。

「安全な薬」「危ない薬」
とは、どういうことか

患者さんも、また私たち医師も、「安全な薬」とか、「危ない薬」「問題のある薬」というような言い方をします。これは、「安全な薬」だから、100%障害のない赤ちゃんが産まれる、という意味ではありませんし、「危ない薬」「問題のある薬」だから、必ず赤ちゃんに障害が出る、という意味でもありません。

赤ちゃんに障害が出る確率は、薬などの影響がなくても常に3%あります。これは自然のリスク。「安全」というのは、この「自然のリスク以上にはならない」「3%以上にはならない」という意味です。

「危ない」「問題がある」というのは、この自然のリスクよりも高くなるということ。そういうと、まるで産まれてくる赤ちゃんの半数とかに障害が出るかのように思う人がいます。でも、そんな薬は危なくて使えたものではありません。「リスクが高い」といわれている薬でも、たいていは数%高くなるくらい。10%以上になることは、まず、めったにありません。

リスクが増える場合でも、「2%増えるということは、自然のもつ3%のリスクが5%になるということ。それは障害のない赤ちゃんが生まれる率が、97%から95%になること」と私はよく説明します。すると、「ああ、それくらいなのか」と胸をなでおろしてくれる人が多いですね。

相談者の推移 外来開設当初に比べて、相談者数は倍増!虎の門病院の「妊娠と薬外来」は週1日(水曜日)のみだが、1日10~12人の予約が入る。(資料/虎の門病院)

日常で使っている薬は、
心配いらないものが
ほとんど

いまやコンビニでも薬が買える時代です。うっかり飲んだ薬で、そのたびに赤ちゃんに異常が起こっていたら、社会的な大問題になってしまいます。

町の薬局で簡単に手に入る風邪薬や頭痛薬、胃腸薬などの中に、催奇形性(胎児に奇形を起こす性質)の心配がある薬は、まずありません。市販の目薬や貼り薬、塗り薬なども同様で、これらは体にほとんど吸収されません。説明書に「速やかに成分が血中に吸収され…」とあったりしますが、たとえば肩こりでシップ薬を貼って、それが腰痛や頭痛にまで効くことはないわけで、これらは部分的に作用するだけです。

病院で処方される解熱剤や咳止め、抗炎症薬、抗生物質、また花粉症、アトピー、ぜんそくなどのアレルギーなどの薬も、妊娠と知らずに使ってしまったとしても、胎児にリスクがあることは、まずないでしょう。

漢方薬も、体を冷やすなど、効能として妊娠中に使ってはいけないものはありますし、副作用もないわけではありませんが、おなかの赤ちゃんに異常を与えるレベルのものは、まずないと考えていいでしょう。

B型肝炎やインフルエンザなどの予防接種も、妊娠中でも必要に応じて行います。また、妊娠中に風疹ワクチンは使用しないことになっていますが、知らずに接種しても、「胎児風疹症候群」(母体が風疹にかかったことによって起こる胎児の難聴などの障害)になったという報告はありません。

こういうふうにいうと、「なんだ、だいじょうぶなんだ。ほとんど安全なんだから、気にしないで薬を使ってもいいんですね」という人がいますが、それは大間違いです。

催奇形性が問題になりやすい妊娠初期に、うっかり使った薬について「リスクは上がらない」といっているだけで、だからといって、薬をむやみに使ってはいけません。薬は必要性があってはじめて使うものですから、妊娠に気づいたら、産婦人科医で必要な薬を適切に処方してもらうことが大原則です。

薬にあふれた生活。市販薬などで、胎児に影響を及ぼすものは、ほとんどない。しかし、妊娠に気づいたら、かかりつけの産婦人科医に処方してもらうのが原則。

心配があるのは、
持病のある人の薬

市販薬などに胎児へのリスクが高くなる薬は少ないのですが、持病のある人が使う薬は、注意が必要です。抗がん剤、リウマチ、高血圧、てんかんなどの薬の中には、リスクの高くなるものがあります。

でも、たとえ胎児へのリスクが高くなるとわかっていても使うことがあります。たとえば、てんかん発作を予防する薬にリスクの高いものがあるのですが、それを使わずに発作を起こしてしまうほうが、母体にとっても胎児にとってもデメリットが大きいので、妊娠中でも使われることが多いのです。

持病を持っている人は、できるだけ妊娠する前に、また妊娠する可能性があることを医師に話して、薬を処方してもらってください。

薬剤別 相談頻度の推移

以前は市販の風邪薬(総合感冒剤)や解熱剤などの相談が多かったが、最近は睡眠薬や抗不安薬など精神科で処方される薬の相談が急増。妊娠してからではなく、妊娠前の相談も増えた。(資料/虎の門病院)

「禁忌」=「危険な薬」
ではない

薬に付いてくる説明書きに、「妊娠中は使用しないでください」と書いてあることがよくあります。それを見てびっくりして相談に来る人も多いのですが、「胎児への影響」と関係ないことも多いのです。製薬会社にとっては、薬にその危険性がなくても、少しでも疑われたり、話題にされるだけでダメージなので、妊婦をけん制して「使ってほしくない」と書くことがあるのです。

インターネットの情報も、この添付文書が元になっています。そこには、「禁忌」という言葉もよく使われていますが、これは「妊娠中は使用しない」を、「妊娠中禁忌」と表現しているだけ。「胎児に影響がある」という意味ではありません。

また、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」と書いてあることもあります。これもじつに当たり前のこと。「薬が持っているリスクよりも治療上のメリットのほうが上回ると思った場合に使ってください」ということを言っているだけで、これはあらゆる薬を使う場合の大前提。念のために書かれているだけです

また、薬の本などを見ると、「妊婦に対する安全性が確立されていない」と書かれていることもあります。これも、「だから危険」という意味ではありません。安全性を確立するためには、治験といって実際に薬を飲んでもらうテストをしますが、これに妊娠中の女性が参加するはずがありません。ですから、「妊婦への治験を行っていない」というだけの意味であって、その薬が、「胎児にとって危険」ということではないのです。

併用薬剤数 1人の人が何種類の薬を使っているかのデータ。病院1件行くと、たいてい数種類の薬が処方されるので、2~3件行くと、10種類くらいはあっという間。病院も私たちも、薬を使いすぎ?(資料/虎の門病院)

薬に付いている説明文書には、「妊娠中は服用前に医師に相談を」とか、「妊娠している可能性のある婦人は使用しない」とよく書いてあって不安になるが、胎児への危険度とは直接関係ないことも多い。

薬で心配になったときの
相談先は…

薬はむやみに怖がるものではないけれど、むやみに飲んでいいものでもない。ということがわかっていただけたと思いますが、でも、実は正確な薬の情報を得ることはとても難しいことなのです。

ここ『虎の門病院』と同レベルの情報をもっている病院は、東京都内でも数ヵ所、全国でもまだわずかしかありません。

薬のことで心配になったら、まず、かかりつけの産婦人科医に聞いてみて、さらに詳しいことが知りたい人は、「妊娠と薬外来」へ。虎の門病院薬剤部医薬情報科(電話03-3588-1111内線3410)で電話予約をとったうえで来院してください。

また、かかりつけの産婦人科医から、大きな病院に問い合わせてもらってもいいでしょう。

  • 『国立成育医療センター』(世田谷区)でも、「妊娠と薬情報センター」が開設されています。
    詳しくはホームページで。

取材協力/虎の門病院(東京都港区)
監修/横尾郁子先生(虎の門病院産婦人科)

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