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妊娠中から始まる母乳育児成功への道

2008.06.04

妊娠中のいまは、無事出産!の気持ちでいっぱいいっぱい。でも出産直後から、すぐに育児は始まります。中でも気になる母乳のこと。「ちゃんと出るかな?」「続けられるかな?」…。そんな不安は、いまから解消! WHO・ユニセフから「赤ちゃんにやさしい病院」に認定された『日本赤十字社医療センター』で、積極的に母乳育児をすすめている産婦人科医の笠井靖代先生と看護師長・橋本加奈枝さんにお話を伺ってきました!

監修

笠井靖代先生

『日本赤十字社医療センター』第一産科部副部長。医学博士。産婦人科専門医、臨床遺伝専門医。東京医科歯科大学医学部、東京大学医学部大学院卒業。米国留学を経て、現職。『35歳からのはじめての妊娠・出産』(ナツメ社)の著書がある。現在、3歳の女の子のママ。自ら高齢出産を経て、母乳育児にも取り組んだ経験から、妊婦さんや産後のママへのまなざしは温かく、細やかで的確なアドバイスには定評がある。

橋本加奈枝さん

『日本赤十字社医療センター』看護部看護師長。母乳育児支援に取り組む「赤ちゃんに優しい病院」として認定された同病院で、母乳育児をめざす妊婦さんと産後ママを支え、実際のおっぱいケアや母乳育児を指導するベテラン助産師。「自分の体を信じれば、大丈夫」と、心強いメッセージ。

お産直後の1週間が
とても大切

「母乳で育てたいけど、おっぱいがちゃんと出るかな…」と、今から不安に思っている人は、たくさんいると思います。

でも、母乳というのは、赤ちゃんが産まれたからといって、ひとりでに出てくるわけじゃないんです。赤ちゃんの方も最初からうまく吸えるわけじゃない。

母乳は赤ちゃんが乳首を吸う刺激で、だんだんと作られるようになって、そうしてたくさん出るようになると、赤ちゃんも吸いやすくなる――。お母さんと赤ちゃんの、初心者同士の共同作業なんです。

これを成功させるには、最初がとても大事です。

まず、出産後は24時間母子同室で、なるべく一緒にいるようにすること。そして、赤ちゃんが欲しがるペースでおっぱいをあげること。

「カンガルーケア」といって、産まれてすぐに赤ちゃんを抱っこして乳首を吸ってもらうのも、とてもいい刺激になります。

こうすることで、自然の母乳の力が目覚めていくんです。

帝王切開でも、母乳育児はできますよ。おなかが少しは痛いでしょうが、少しがんばって、早い段階でおっぱいを吸ってもらうようにしましょう。

出産直後のお母さんは疲れていますから、ゆっくりからだを休めて、誕生の喜びをかみしめたいところですが、おっぱいをあげたと思ったら、またおっぱい。おむつ、おっぱい、おむつ、おっぱい……の繰り返しで、夜中も寝ていられない。とても忙しくてお母さんはへとへと。赤ちゃんもうまく吸えないので、泣くし体重が落ちてくるし……。となると、心配で心配でミルクを足そうか、となるんですね。でも、3000gくらいで生まれた赤ちゃんなら、1週間で300gくらい減ってもだいじょうぶ。羊水に浮かんでいたのでむくんでいますし、このくらいの体重減少は生理的なものです。

お母さんは本当にたいへんでしょうけれど、でも、母乳は赤ちゃんにとって免疫や栄養面でパーフェクト。ママの体の回復にも役立つなど、いいことづくめです。長い目でみれば、一度たいへんなところを乗り越えてしまえば、その後は必ずラクに母乳をあげられるようになりますから、ここをなんとかがんばって乗り切ってほしいと思います。

笠井先生が勤める『日本赤十字社医療センター』。1989年、WHOとユニセフが出した「母乳育児を成功させるための10カ条」を実践し、「赤ちゃんにやさしい病院」と認定されているのは、都内ではここだけ。

母乳育児をはばむ、
新生児室への「隔離」

20年前、私が勤めていた病院では、感染症予防のためといって赤ちゃんは新生児室に「隔離」していました。入るときは、手を洗って、白衣、マスク、帽子を着用、という具合でしたから、当然、お母さんがいつでも好きなときにおっぱいをあげるなんてできなかったんですね。授乳時間が決まっていて、その時間に赤ちゃんが寝ているとあげられない、そうすると今度は、赤ちゃんが次の授乳時間までにお腹を空かせて泣くのでミルクを足してしまう。悪循環なんです。

今は、感染予防に対する考え方が大きく変わり、過剰な対策は必要ないとされるようになってきましたが、まだ新生児室に赤ちゃんが並んでいるという光景はあちこちで見られますね。

母乳育児支援、という意味では、病院自体がなかなか追い付いていないところがあるんです。ですから、みんなが母乳育児を積極的に行って、「私はなるべく母子同室にしたい」とか「できるだけ母乳だけでがんばってみたい」と希望を言ってほしい。それが病院を変えていくことにつながると思います。

『日本赤十字社医療センター』の授乳室は、家庭的なやわらかい雰囲気で、リラックスして母乳をあげられる。看護師、助産師さんたちのアドバイスは、実の母親のような目線でとてもあたたかい。

母乳育児を成功させるための10カ条

母乳育児を実践する出産施設に向けた10ヵ条ですが、ママにもおおいに参考になる、母乳育児のキモが書かれた10ヵ条です。

  1. 母乳育児推進の方針を文書にして、すべての関係職員がいつでも確認できるようにしましょう。
  2. この方針を実施するうえで必要な知識と技術をすべての関係職員に指導しましょう。
  3. すべての妊婦さんに母乳で育てる利点とその方法を教えましょう。
  4. お母さんを助けて、分娩後30分以内に赤ちゃんに母乳をあげられるようにしましょう。
  5. 母乳の飲ませかたをお母さんに実地に指導しましょう。また、もし赤ちゃんをお母さんから離して収容しなければならない場合にも、お母さんに母乳の分泌維持の方法を教えましょう。
  6. 医学的に必要でないかぎり、新生児には母乳以外の栄養や水分を与えないようにしましょう。
  7. お母さんと赤ちゃんが一緒にいられるように、終日、母子同室を実施しましょう。
  8. 赤ちゃんが欲しがるときは、いつでもお母さんが母乳を飲ませてあげられるようにしましょう。
  9. 母乳で育てている赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えないようにしましょう。
  10. 母乳で育てるお母さんのための支援グループ作りを助け、お母さんが退院するときにそれらのグループを紹介しましょう。

60点で合格!
2ヶ月がんばれば、
ラクになる!

母乳育児が軌道に乗るには、2ヶ月ぐらいかかると思っていたほうがいいですね。

でも、この2ヶ月がなかなかしんどい。初めてのことだらけで、疲れもたまってきます。お産まではみんなが大事にしてくれたのに、産まれて退院したら、なんだか、ご主人まで元の忙しい会社生活に戻っちゃったり。

いろいろなサポートが必要なのに、行政の手も届かない。ですから、授乳以外はなるべくいろいろな人に声をかけて助けてもらって、一人で抱え込まないことです。

2ヶ月を乗り切れば、ママも赤ちゃんもお互いに慣れてきてずいぶん楽になると思います。赤ちゃんがママを見てうれしいときに、にっこりするようになってきて励みになるし、赤ちゃんも集中して飲んで、授乳のあいだは寝てくれるようになるので、疲労はずいぶん違ってきます。

その日1日だけ満点とか、120点を取ってもしょうがないので、毎日60点以上取れればよしとして、とにかく継続していくことが大事。たとえば1日1回くらいミルクを使ってもいいと思うんです。

私も40歳で出産したので、体力的にやはりきつくて。最初の頃は、夜11時の授乳だけは夫にミルクを作って飲ませてもらっていたんです。その間、私は少し長く休んで、夜中の授乳に備えていました。そうこうするうちに、おっぱいがどんどん出るようになって張ってきて、飲んでもらった方がラクになって、結局2ヶ月過ぎてからは、基本的には母乳だけでうまくできるようになりました。

母乳育児を100%達成するか、すべてあきらめてしまうか、とオール・オア・ナッシングで決めつけず、ときどきミルクをあげながらでも、しぶとく吸わせ続けてください。そういう意味では、ミルクという有難いものがあるわけですから、うまく利用したらいいと思いますよ。

ただ、ミルクを足すときに気をつけたいのは、「乳頭混乱(にゅうとうこんらん)」といって、お母さんの乳首と、哺乳瓶の乳首とがあると、赤ちゃんが混乱してしまうんです。そして、どうしても吸いやすい哺乳瓶の方にむかってしまって、おっぱいを飲まなくなることがあるんですね。今は、ママの乳首に似せてわざと吸いにくく作られた哺乳ビンがありますから、疲れたときだけミルクを足す、という場合は、そういうものを選ぶといいと思います。

母乳のここがすごい!

栄養的にパーフェクト!

タンパク質や、エネルギーのもとになる乳糖(ラクトース)、脂肪など、赤ちゃんの成長に必要な100以上もの栄養素が、すべて赤ちゃんの未熟な消化・吸収・排泄にマッチした形で含まれている。6ヶ月くらいまでおっぱいだけでだいじょうぶ!

免疫物質が豊富!

母乳には免疫グロブリンなど、人工的には作ることが難しい免疫物質がいくつも含まれている。特に生後2、3日までに出る初乳は「免疫体の濃縮ジュース」。母乳を飲んでいると、赤ちゃんは半年くらいは感染症などから守られます。下痢や中耳炎、新生児突然死症候群などにかかるリスクも減り、アレルギーの予防にも。

脳や神経系の発達にいい

母乳には、脳や神経系の発達に必要な乳脂肪を消化するリパーゼが含まれている。また、おっぱいを飲むときは、下あごなどの筋肉をたくさん使いますから、その刺激で脳や神経系が発達する。

ママの体の回復にもいい

母乳を吸う刺激で、オキシトシンというホルモンも分泌されて子宮が収縮。お母さんの体の回復につながります。1年間母乳育児をするたびに、乳がんになる率が4.3%ずつ低下する!という数字も出ています。

ママと赤ちゃんの絆づくりにいい

肌と肌を合わせ、吸われることで、ママはとてもいい気持ち。赤ちゃんもママの胸ですっかり安心。お互いの心が安定、絆づくりに役立ちます。

妊娠中の乳首の
チェック、ケアの方法

私たちの病院では、妊娠15、16週で一度、乳首の形をチェックします。乳首がひっこんでいる陥没乳頭の人は、赤ちゃんが吸いにくいので、自分で乳首の回りを押して出すようにしていきましょう、と指導します。

ご主人に吸ってもらうのもいい方法です。

乳首を刺激すると子宮が収縮しておなかの赤ちゃんによくないのでは?と思うかもしれませんが、一般には問題ない、と考えられています。授乳中に次の子どもを妊娠してもおっぱいを続けていい、と言うくらい。医学的な常識も変わってきているのです。

妊娠5ヶ月頃になったら、乳首の先のお手入れを始めましょう。繊維のカスなどが詰まっていたりするので、お風呂の前などに、やわらかいガーゼなどにオリーブオイルをつけて乳首の先を拭き取るようにします。

この頃になるとだいぶ乳房も大きくなってくるので、下着なども血流を阻害しない、ゆったりしたものに替えていきましょう。家ではブラジャーはしないくらいでいいと思います。

妊娠34、35週にも乳首を診ます。この頃には「乳管開通」といって、乳首をちょっとつまむようにすると分泌物が出てきます。出ないときは乳首の回りをほぐすようにしながら、乳管の開通を促すために、乳首をつまむお手入れを出産までつづけていきましょう。開通できた方が、スムーズに母乳をあげられるようになります。乳房全体のマッサージなどはあまり重要ではありません。

【陥没乳頭】
乳首は妊娠15、16週頃にチェック。乳首がひっこんでいる場合は引き出しておく。パパに吸い出してもらうのも、いいそう。

【乳管開通】
乳輪のまわりに指の腹を当て、乳房の奥のほうにグッと押し込んでそのまま乳輪部を前に引っ張り出す。引っ張り出した状態のまま、指で乳首のまわりを軽くしごく。両方の乳首で行う。

母乳はすばらしい。
でも、「母乳育児」=
「立派な母親」ではない

母乳育児の大切さは世界的にも見直されていて、アメリカでは、ミルクの開発が進んだ72年に20%だった母乳育児率が今、だいたい65%、さらに2010年には75%になることを目指しています。

日本でも、妊娠中に「母乳で育てたい」と思っている人は、96%!(厚生労働省調べ)。でも、生後1ヶ月で母乳育児の人は42.4%。私たちの病院では80%以上です。ミルクと混合の場合も足すと母乳をあげる人は増える傾向にあります。

母乳育児は、努力してがんばってみる価値があることです。でも、だからといって、母乳でないと立派なお母さんになれない、なんてことはありません。せっかく出産したんですから、どうぞ育児を楽しんでください。

どうしてもうまくいかない時は、ミルクを利用してもよい、できることをやればいい。そのくらいの余裕の気持ちを持って、母乳育児に取り組んでみてください。

子どもを産む、という大変なことを成し遂げただけで、すばらしいこと。堂々と自信を持って、楽しく子育てしていってくださいね。

看護師長・
橋本加奈枝さんのお話
変化するおっぱいを
よく観察しよう!

妊婦さんに話を聞くと、「自分のおっぱいをちゃんと見たことがない」という人がいるんです。でも、妊娠したら、自分のおっぱいをよく「見て」ください。

妊娠5ヶ月くらいから、乳房が大きくなってきて、乳輪や乳首に色がついてきます。これはおっぱいの準備なんだって実感すれば、「おっぱい頑張ろう」と思えてきますよ。

妊娠10ヶ月になって、乳管開通しておっぱいが出始めると、この自分のおっぱいで子どもを育てられるかもしれない、って思う。そういう実感って、すごく大事だと思います。そしてそれは、誰でもみんなが経験できることなんです。

自分の体が、妊娠したらちゃんと自然に変化するんだ。出産、育児だって、当然できるように自然にその力が備わっているんだ、っていう実感が、お産も母乳育児も乗り切っていく自信になると思います。

もともと持っているものを最大限に生かしていけば大丈夫。自分の中に目覚めていく自然の力を信じて、妊娠も出産も、そして育児も楽しんでいきましょう。

監修/笠井靖代先生(日本赤十字社医療センター 第一産科部副部長)

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